『目を覚ますと、そこは』
2006年10月12日 ショート・ショート コメント (2) 目を覚ますと乗った覚えのない汽車のイスにもたれていた。
頭を殴られたのだろうか、ズキズキ痛む。記憶も曖昧だ。
車内は通路を挟んで向かい合う形になっている。お世辞にも奇麗とはいえない。乗客は、私以外には目の前の身なりの良い男性だけだ。いかにもお金を持っていそうである。
それだけに、男性は浮いていた。
「この汽車はどこへ向かっているのですか?」
男性に尋ねた。自分でも馬鹿なことを訊いたと思う。自分の乗っている汽車の行き先も分からないなんて。
「自分に何が起こったのか分からずにこの汽車に乗っているのかね」
予想通り、男性は呆れた顔をした。
「私たちが向かっているのは、あの世だよ」
「あの世って?」
「君はあの世も分からないのかね。死んだ人間が行く世界に決まっているではないか」
「ということは私は……」
「死んだのだよ。いや、正確には死ぬところ、といったところか。まだあの世の住人になってはいないからね」
死んだ? 私が? そんな……。
「私はある国で大統領をしていたのだがね」
唐突に男性が話し始めた。
「国で革命が起こってね。この有様だ」
そう言って自分の胸の辺りを指差した。血で赤く染まっているように見える。言われるまで黒めなスーツだったので気が付かなかった。
「あなたも死んだですか」
「だから、まだ死んではいない。汽車を降りればいいのだから。でも私は疲れた。国のために『善政』をしてきたつもりだが、国民には分かってもらえなかったようだしな。このままあの世へ向かおうと思う」
彼の『善政』という言葉で記憶の一部が蘇った。そうだ。私も政治家だった。国のためにやらねばならないことがある。
「君は、どうするのかね?」
「思い出しました。私はまだ死ねない。成し遂げなければならないことがあります」
「そうか。コレも何かの縁だと思っていたのだが。それでは次の駅で降りるのがいいだろう。幸い、次が最後の駅だそうだ」
「ありがとう。私が死んだら、また、お会いしましょう」
「ああ」
ちょうど駅に着いたようだ。私は汽車を降りた。
「きっと直ぐに会えるだろう」
「まだ意識があるぞ!」
私の耳に飛び込んできた。生き返ったのだ。
そして間もなく、
「大統領が息を引き取りました!」
とも聞こえてきた。全てを思い出した。
「このテロリストを殺せ!」
その声と共に、私の頭は銃で撃ちぬかれた。
私は政治家などではなかった。
先ほど会った中年の男性に、会うのに時間はかからなかった。
次に乗った汽車は、駅に止まることはなかったからだ。
---------------------------------------------
後記でございます。第3回目ですね。
いかがでしたでしょうか。
今回、初めは中世を舞台にしようか悩みました。
そのほうが書きやすいので。
ただ、俺は中世が大嫌いなので、強引に現代にしました。
違和感があるか、心配です。
プロットは中世設定なのです。
汽車は敢えて汽車にしています。
感想をお待ちしております。
相互の方のみ、コメントオンです。
なのでリンクもお待ちしております。
頭を殴られたのだろうか、ズキズキ痛む。記憶も曖昧だ。
車内は通路を挟んで向かい合う形になっている。お世辞にも奇麗とはいえない。乗客は、私以外には目の前の身なりの良い男性だけだ。いかにもお金を持っていそうである。
それだけに、男性は浮いていた。
「この汽車はどこへ向かっているのですか?」
男性に尋ねた。自分でも馬鹿なことを訊いたと思う。自分の乗っている汽車の行き先も分からないなんて。
「自分に何が起こったのか分からずにこの汽車に乗っているのかね」
予想通り、男性は呆れた顔をした。
「私たちが向かっているのは、あの世だよ」
「あの世って?」
「君はあの世も分からないのかね。死んだ人間が行く世界に決まっているではないか」
「ということは私は……」
「死んだのだよ。いや、正確には死ぬところ、といったところか。まだあの世の住人になってはいないからね」
死んだ? 私が? そんな……。
「私はある国で大統領をしていたのだがね」
唐突に男性が話し始めた。
「国で革命が起こってね。この有様だ」
そう言って自分の胸の辺りを指差した。血で赤く染まっているように見える。言われるまで黒めなスーツだったので気が付かなかった。
「あなたも死んだですか」
「だから、まだ死んではいない。汽車を降りればいいのだから。でも私は疲れた。国のために『善政』をしてきたつもりだが、国民には分かってもらえなかったようだしな。このままあの世へ向かおうと思う」
彼の『善政』という言葉で記憶の一部が蘇った。そうだ。私も政治家だった。国のためにやらねばならないことがある。
「君は、どうするのかね?」
「思い出しました。私はまだ死ねない。成し遂げなければならないことがあります」
「そうか。コレも何かの縁だと思っていたのだが。それでは次の駅で降りるのがいいだろう。幸い、次が最後の駅だそうだ」
「ありがとう。私が死んだら、また、お会いしましょう」
「ああ」
ちょうど駅に着いたようだ。私は汽車を降りた。
「きっと直ぐに会えるだろう」
「まだ意識があるぞ!」
私の耳に飛び込んできた。生き返ったのだ。
そして間もなく、
「大統領が息を引き取りました!」
とも聞こえてきた。全てを思い出した。
「このテロリストを殺せ!」
その声と共に、私の頭は銃で撃ちぬかれた。
私は政治家などではなかった。
先ほど会った中年の男性に、会うのに時間はかからなかった。
次に乗った汽車は、駅に止まることはなかったからだ。
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後記でございます。第3回目ですね。
いかがでしたでしょうか。
今回、初めは中世を舞台にしようか悩みました。
そのほうが書きやすいので。
ただ、俺は中世が大嫌いなので、強引に現代にしました。
違和感があるか、心配です。
プロットは中世設定なのです。
汽車は敢えて汽車にしています。
感想をお待ちしております。
相互の方のみ、コメントオンです。
なのでリンクもお待ちしております。
コメント
本編、多分、現代と言うか「銃」が使える時代設定は、むしろ、このオチには必須だと考えます。あと、緊急医療で蘇生を確認できたりする所も、ちょい過去から現代、ないしちょい未来って感じが成功していると思います。
基本的には、大好きなんですが...小物(例えば、有名な独裁者には付き物でしたから)葉巻だとか、お髭だとか、ちぃ〜とばかしあざとい位の仕掛けがあっても面白いのかなと思いました(あ、大きなお節介だとしたら、ゴメンナサイ)
このカテゴリーに分類されると思われるプロットを使ったもので、手塚の御大の短編で、たぶんインカっぽい国の生贄の少女が、首を切られ絶命までの一瞬の間に、現代の日本(?)で平和な主婦の生活を体験するって感じのがありましたが、貴方の本編は同様に読者の私がヴィジュアルをイメージできる良作だと感じました。
なんせ、この手の「お話」には、目がないものですから♪
次も期待させていただいておりますm(__)m
面白かったという感想はもちろんですが、
自分が気づかない部分や他の手法などを書いて
もらえることは勉強になります。
感想をもらえないと、独りよがりな文章をダラダラと
書くことだけになってしまいますし。
今回のは大統領を善人にするか悪人にするかで
非常に悩んでいました。独裁は別として、
政治に善も悪もないと思うので。
なので最後までその部分を曖昧にしてしまったのは
読み手にとっては確かに読みにくいですね〜。
その少女の話はすごいアイデアですね。
古代文明と現代の、タイムトラベルではないマッチングは
教えてもらえなければ絶対に知りえなかったと思います。
どうしてもタイムトラベルになってしまうと思います。
もしよろしければ、今後もお願いします。