『それでも何も変わらない』
2006年10月17日 ショート・ショート「これからどうすればいいんだ……」
競馬で大金をすってしまった。今まで常に1着だった馬に給料と貯金をつぎ込んだ結果がこれだ。
紙一重のところで敗れ去った。その馬と共に。俺は紙束をなくしたことで、人生に影がかかったのだ。
文字通り、1文無しだ。奇しくも7月の暑い日。隣では缶ジュースを飲んでいる子供がいる。いつも思うのだが、競馬場に子供を連れてくる親はどうなんだ。
途方に暮れて、競馬場のゲートを通るとき、男性に声をかけられた。頻繁に競馬場に来ているから、中には見知った顔もいるが、彼は初めて見た顔だ。
「いや〜、惜しかったですね〜」
「あのレースですか? そうですね〜。俺なんて大金をつぎ込んでいましたよ」
「そうみたいですね〜。失礼ながら馬券を買うところを見ていました」
本当に失礼なヤツだ。
「これはお恥ずかしいところを見られました」
「いえいえ。競馬場にはよく来られるので?」
「ええ。でも、しばらく来れないかもしれませんね」
「そうなんですか?」
「さっきのレースでちょっと懲りました」
「あ〜、私も負けたときは同じように考えます。でも、私の場合は結局すぐに来てしまうんですよ」
俺の場合は種がない。来ても見てるだけだ。
「あの馬が負けるとは思いもしませんでした」
話題が不愉快だったので変えた。そのまま別れてもよかったのだが、彼には何か、引き寄せられるものがあった。
「もし分かっていたら、かけませんでしたか?」
「もちろんですよ」
何を言ってるんだ。当たり前じゃないか。
「そうですか。私は馬が好きなので、ダメだと分かっていてもかけてしまいますよ」
自分は金を儲けることを目的にしていないとでも言いたいのだろうか。
「あなたはお金を儲けることを目的に来られているんですね」
ドキッとした。心のうちを読まれているような、そんな気がした。
「ええ。できれば稼ぎたいですね。一生に一度でいいから大金をつかんでみたいものです」
「それならこの指輪を差し上げましょう」
「何ですか?」
「この指輪は時間を戻すことができるんです」
おちょくってるのか? 気味が悪くなってきた。さっき別れていればよかったと後悔の念にかられる。
「またまた、ご冗談を」
「物のためしにつけてみてくださいよ。差し上げますから」
そう言って、俺に強引に渡してきた。
「それじゃあ……」
仕方がないので、はめてみた。それで開放されるのなら。
「よく似合っていますよ」
「そうですか?」
「ええ。本当に」
すると競馬場に送迎バスが入ってきた。
「あ、私、あのバスに乗らないと。それでは、また」
そう言って、男性は大急ぎで走っていった。
次の日。新聞を見ると本当に戻っていた。
慌てて競馬場へ行き、全額を勝つ馬につぎ込んだ。前回とは違う、確実に勝つ馬に。
当然のようにかけた馬は勝ち、俺は大金を手に入れた。
その日はそのまま繁華街へ出て行った。
何日繰り返したのだろう。次の日にいくことができない。
指輪は外そうにも外れない。
勝ったお金も朝になるとなくなっていた。
大金をあきらめて、思い切って競馬場へ行かないこともあった。それでも次の日にはいけない。
損を覚悟で初めにかけた馬に同じ額をかけた。当然大負けしたが、それでも指輪は外れず、次の日にはいけない。
それから数回繰り返すと、前に会った男性に同じ場所で再び出会った。
「どうでしたか? 大金をつかんだ気分は」
「それが、明日にいけないんです」
「それはそうでしょう。指輪をつけたままですから」
「どうしたら外れるんですか?」
「外したいですか?」
「お願いします」
「その指輪は同じ日を繰り返させます。そして外れるのは、あなたから幸福感がなくなったときです」
「そんな……」
胸の辺りに激しい痛みを感じた。声が出なくなった。
そしてそのまま、俺は動くことができなくなった。
「人間は、生きている限り幸せなんですよ」
そう言うと、俺の指から彼は指輪を抜き取った。
同じ日を繰り返していても、俺の寿命は減っていたのだ。そして同じ日を繰り返すことでのストレスから、その減りは速度を増した。
------------------------------------------------
後記です。
長いです。今回は長いです。これがメンテナンスで潰れた。
よくもう一度、書いたものです。
プロットしかないので、また考え直しながら書きました。
今回の競馬場は我が故郷、岩手のオーロパークをイメージに
書きました。あるんですよ、大きな門が。
そしているんですよ、ちびっ子が。
さらには来るんですよ。送迎バスが。
今回は話の持って行き方が、今まで以上に強引な感じですね。
申し訳ない。これでは文章ではなく恥をかくだけに・・・。
競馬で大金をすってしまった。今まで常に1着だった馬に給料と貯金をつぎ込んだ結果がこれだ。
紙一重のところで敗れ去った。その馬と共に。俺は紙束をなくしたことで、人生に影がかかったのだ。
文字通り、1文無しだ。奇しくも7月の暑い日。隣では缶ジュースを飲んでいる子供がいる。いつも思うのだが、競馬場に子供を連れてくる親はどうなんだ。
途方に暮れて、競馬場のゲートを通るとき、男性に声をかけられた。頻繁に競馬場に来ているから、中には見知った顔もいるが、彼は初めて見た顔だ。
「いや〜、惜しかったですね〜」
「あのレースですか? そうですね〜。俺なんて大金をつぎ込んでいましたよ」
「そうみたいですね〜。失礼ながら馬券を買うところを見ていました」
本当に失礼なヤツだ。
「これはお恥ずかしいところを見られました」
「いえいえ。競馬場にはよく来られるので?」
「ええ。でも、しばらく来れないかもしれませんね」
「そうなんですか?」
「さっきのレースでちょっと懲りました」
「あ〜、私も負けたときは同じように考えます。でも、私の場合は結局すぐに来てしまうんですよ」
俺の場合は種がない。来ても見てるだけだ。
「あの馬が負けるとは思いもしませんでした」
話題が不愉快だったので変えた。そのまま別れてもよかったのだが、彼には何か、引き寄せられるものがあった。
「もし分かっていたら、かけませんでしたか?」
「もちろんですよ」
何を言ってるんだ。当たり前じゃないか。
「そうですか。私は馬が好きなので、ダメだと分かっていてもかけてしまいますよ」
自分は金を儲けることを目的にしていないとでも言いたいのだろうか。
「あなたはお金を儲けることを目的に来られているんですね」
ドキッとした。心のうちを読まれているような、そんな気がした。
「ええ。できれば稼ぎたいですね。一生に一度でいいから大金をつかんでみたいものです」
「それならこの指輪を差し上げましょう」
「何ですか?」
「この指輪は時間を戻すことができるんです」
おちょくってるのか? 気味が悪くなってきた。さっき別れていればよかったと後悔の念にかられる。
「またまた、ご冗談を」
「物のためしにつけてみてくださいよ。差し上げますから」
そう言って、俺に強引に渡してきた。
「それじゃあ……」
仕方がないので、はめてみた。それで開放されるのなら。
「よく似合っていますよ」
「そうですか?」
「ええ。本当に」
すると競馬場に送迎バスが入ってきた。
「あ、私、あのバスに乗らないと。それでは、また」
そう言って、男性は大急ぎで走っていった。
次の日。新聞を見ると本当に戻っていた。
慌てて競馬場へ行き、全額を勝つ馬につぎ込んだ。前回とは違う、確実に勝つ馬に。
当然のようにかけた馬は勝ち、俺は大金を手に入れた。
その日はそのまま繁華街へ出て行った。
何日繰り返したのだろう。次の日にいくことができない。
指輪は外そうにも外れない。
勝ったお金も朝になるとなくなっていた。
大金をあきらめて、思い切って競馬場へ行かないこともあった。それでも次の日にはいけない。
損を覚悟で初めにかけた馬に同じ額をかけた。当然大負けしたが、それでも指輪は外れず、次の日にはいけない。
それから数回繰り返すと、前に会った男性に同じ場所で再び出会った。
「どうでしたか? 大金をつかんだ気分は」
「それが、明日にいけないんです」
「それはそうでしょう。指輪をつけたままですから」
「どうしたら外れるんですか?」
「外したいですか?」
「お願いします」
「その指輪は同じ日を繰り返させます。そして外れるのは、あなたから幸福感がなくなったときです」
「そんな……」
胸の辺りに激しい痛みを感じた。声が出なくなった。
そしてそのまま、俺は動くことができなくなった。
「人間は、生きている限り幸せなんですよ」
そう言うと、俺の指から彼は指輪を抜き取った。
同じ日を繰り返していても、俺の寿命は減っていたのだ。そして同じ日を繰り返すことでのストレスから、その減りは速度を増した。
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後記です。
長いです。今回は長いです。これがメンテナンスで潰れた。
よくもう一度、書いたものです。
プロットしかないので、また考え直しながら書きました。
今回の競馬場は我が故郷、岩手のオーロパークをイメージに
書きました。あるんですよ、大きな門が。
そしているんですよ、ちびっ子が。
さらには来るんですよ。送迎バスが。
今回は話の持って行き方が、今まで以上に強引な感じですね。
申し訳ない。これでは文章ではなく恥をかくだけに・・・。
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